心に巣食う過去

今年は晴れて昇格し、人事部長となった。年収も5年前と比べて2倍以上になり、それなりに生活は豊かになったが、心の中で何かを渇望する感覚はなくならず、むしろ仕事で自分を追い込んだ。

ストレスはピークに達し、週末はヨットに出かけ、それでも鬱屈した感覚は拭えず、富士山が一望できるマンションを思うのまま購入した。それでも現状には満足がいかなかった。私は自分を鬱なのではないかと疑ったが、知人の精神科医は否定した。代わりにその精神科医は私の気がつねに急いていることを指摘した。

それは先に先にと将来を見越していかないと不安になる働き盛りの中年によくある症状であるようだ。しかし自分の過去を幼少期まで振り返った時、祖母がお金の件で苦労をしていたのでお前には同じ思いはさせたくないと言って静かに涙を流したことに衝撃を受けた記憶がよく鮮明に思い出されることに気がついた。なぜ祖母がそんなことを言ったのかは当時の様子から子供心にも見当がついた。その言葉は私の心の奥にまだ棘のように刺さっているようであった。

私は来年の春に19歳も年が離れたフィアンセと結婚することをなっているが、心の澄んだ彼女と一緒にいる時にはそうした自分を追い込みたい心境は見られない。娘のような歳の彼女を大きく育てることで、私の心に巣食う過去を払拭しようと、いま私は必死にもがいている。